作陶家 上野焼 庚申窯3代目 髙鶴裕太 / YUTA KOZURU

墨色と雪色という皮膚感覚でわかりやすい色の対比関係から、墨と雪は正反対の二つを表す慣用句だそうです。

今回作ることとなったうつわとしての「墨と雪」では、墨色、雪色をプロダクトのカラーとして使いながら、その対照的な2つの色がうつわの中でとけあい、調和することを個人的な目標としています。

一つのうつわに全く違う表現を同居させるというのは、日本の陶芸ではごく当たり前のこととして作られてきました。

また日本の文化はそのような焼き物を違和感なく日常の中に受け入れてきた歴史があり、全く異なるものを平気で同列してしまえるというのは日本人の大変ユニークな民族性だと思いますし、多様性に対する自然な態度ではないでしょうか。

そのようなミックス精神を大げさなものではなく、日常で使ううつわで表現したいと思い、使いやすさ、美しさ、なめらかさを皮膚で感じられる「墨と雪」を目指しています。

伝統工芸品 上野焼 / AGANOYAKI

上野焼の歴史は1602年にさかのぼります。茶道の礎を築いた千利休から教えを受けた豊前小倉藩初代藩主・細川忠興と、李朝の陶工・尊楷の出会いから生まれた焼き物だけに、大きな特徴は茶会に用いる「茶陶」をルーツに持つことです。

また、開窯当初から、藩主が使うための特別な器を作っていたという、伝統と誇りも持ち合わせています。現在も、約400年の歴史に裏打ちされた品の良さ、格調高さを感じさせる器が次々と生み出されています。上野焼には、“質素で静かなもの”を意味する茶道の精神「侘び寂び」が色濃く反映されています。目立ちすぎず、それでいてどこか存在感はある。それが上野焼の一番の魅力です。

茶陶をルーツに持つため、一般的に薄作りで、軽いことが特徴にあげられますが、現代注目されているのが、たくさんの種類の釉薬を用いることで生まれる多彩さです。それはまさに、伝統は大切にしながら、さまざまな器作りに励んできた先人たちの努力と工夫。江戸時代から明治時代に変わり、藩制度がなくなった際、藩に守られていたことが逆に災いし、一度は途絶えかけた上野焼。

そんな苦難を乗り越えてきただけに、現状に妥協せず、時代と向き合い、進化を続けてきているのは現在の上野焼の強みです。代名詞ともいえる、銅由来の緑が印象的な釉薬を流れるようにかけた「緑青流し」など、表現の仕方は20種以上。多彩ながら、どこか趣がある器に長い歴史を感じていただければ幸いです。

ディレクター   酒瀨川 瞬 / SHUN SAKASEGAWA

始めに、私は作陶家やクリエイターではありません。                                                       

日常の食卓の中で、作陶家の想いの込められた陶器を使用したことをきっかけに、ライフスタイルにおいて、手応えのある幸福を感じた陶器ファンの一人です。                                            
古き友である、作陶家の髙鶴さんを訪ね、彼の作品の魅力や作陶と向き合う姿勢、人柄を改めて確認し、今回の「墨と雪」を提案しました。                                            
作陶の思考と実践において、求道を続ける高鶴裕太の器は、洗練と荒々しさが 同在しています。
そんな彼の両極の中に日本の伝統色である、黒に近い墨色と白に近い雪色を調和させる。両極のカラーを融合させる。                                            
そして、上野焼の伝統的な薄造りと釉薬の多彩さはこのコンセプトに呼応する。                                 

伝統工芸の歴史と現代らしいミニマルなコンセプトの調和が「墨と雪」を生み出す。
幸福なライフスタイルの入口への物語を、皆さまにお届けします。

PAGE TOP
PAGE TOP